書評:直感と論理をつなぐ思考法(佐宗邦威)
「戦略」×「デザイン思考」による新規事業づくりの参考書として、大変ためになる本だった。
不勉強ながら、佐宗さんのことはこの本で初めて知った。新規事業づくりの考え方に、とても共感できる点(というか、目からウロコも)多く、今後も、活動をフォローさせて頂きたい方だと感じた。
個人的には、2つの点で学びがあった。
だが、日本では、あまり人気がない。
ジョブスのiPhoneで再燃し、ここ6~7年ほどはブームだったが、基本「キワモノ」感のあるソリューションだと認知されていると思う。最近は、そのブームも落ち着いてきて、むしろ教養(リベラルアーツ)に力点がズレてきている気もする。
実際に、コンサルの現場で聞く評判としては、
・外資戦略コンサルなみのフィーを取るのに、ウリ文句は「デザイン思考を信じるものは救われる」という宗教っぽさが、現世ご利益重視の日本人と相容れない
・かと言って、低価格の質の悪いファームに頼むと、最後は「センスが無いやつには分からない」という名の「実質タコツボ」に陥って、役員会議で盛大にスベる
一方、本書で佐宗さんが紹介されている考え方は、とても馴染みやすいのだ。なにより、肩肘はってないのが良い。”日々モヤモヤしている、イチ・サラリーマン”に向け、手取り足取りアドバイスするというトーンで書かれている。秘術を伝授するという感じではなく、Tipsに近いかたち(本書ではCLUEと表現されている)だ。
「もやもやしてますか。ですよねー。じゃあ、こんなコト試してみませんか?・・・そうそう。。。そうです。はい、よく出来ました。それがデザイン思考です。」(優しいときの安西先生 風)である。
なかには、Tipsと呼ぶのも憚られるほどにレベルが低いのでは?と感じるものもあるが、よくよく考えると「確かに、やったら何かが変わるかも」と感じさせるものだ。例えば、
・普段から、自分の心にひっかかった風景や物の写真をとる
そうすることで、自分が普段感じる「違和感やモヤモヤへの感度」が上がる*2し、目の前の雑多な情報を抽象化し、少ない語数で再構築する「アナロジーの力」が鍛えられる、というものだ。こういった右脳的な感性を磨くことが、結果として、事業やプロダクトのアイディエーションの力に繋がる、という。
こういった、明日から使ってみようと思える「実践可能なツール」を、提供しているのが、本書の凄いところだ。
本書のもう一つの学びは、佐宗さんのキャリアを通して、「デザイン思考 × 戦略」の可能性を追体験できることだ。
佐宗さんのご経歴は、開成→東大法学部→新卒P&Gのマーケターという、ピカピカっぷり。ご自身を、もとはゴリゴリ論理派のビジネスパーソンだった、と評している。それが、なぜデザインを扱うようになったのだろうか?
・農耕民族的な、日本企業のカイゼン思考
・狩猟民族的な、データとロジックのコンサル思考(米国流のマッチョな資本主義)
・有閑貴族的な、実績とセンスによるマウンティングが横行するデザイナー思考
流転の末に、「デザイン思考 × 戦略」という学際領域に行き着く彼のライフヒストリーは、大変興味深かったし、同時代に生きる人間として、共感できる部分が多かった。
また、マクロとミクロの視点の上手に切り替えながら、それぞれの思考法を解説していく手腕は、お見事。流石はデザイナーだ。思考法が異なると企業の組織/文化がどう変わるかを分析すると同時に、その企業にかかわる個々人のモチベーションも丹念に汲み取っていく。その巧みな語り口に、「だよな~。わかるな~。」と、思わず唸った。
佐宗さんの経験を追体験するにつれ、僕自身も、いまの仕事*3に自信が持てたし、これからも胸を張って、今の仕事を頑張ろうと思えた。本書には、新規事業まわりでモヤモヤを抱えている人の背中をおしてくれるチカラがあると思う。素晴らしい本だ。僕も、そういう発信が出来るようになりたい。そして、いつか佐宗さんとお仕事できたら、嬉しいな!